相生山緑地(名古屋市天白区)を分断するとして長年議論が続く「都市計画道路・弥富相生山線」の建設事業について、当サイトでは8つの問題点を明らかにしています。

このページでは、「問題点② 科学的根拠を欠いた道路建設の効果」について、交通工学や交通政策の観点から、この道路計画の妥当性について、詳細に検討しています。

名古屋市側は、

  • 渋滞対策
  • 住宅街への車両入り込み対策

などを理由に掲げ、事業の正当性を強調していますが、果たしてその主張に根拠はあるのでしょうか?

※車両入り込み問題等については、こちらの問題点① 住環境への悪影響と、新たな事故発生リスクで詳しく検討しています。


論点① 野並・島田交差点は、そもそも渋滞しているか?

名古屋市は、「弥富相生山線」道路計画の主な目的として、「野並・島田交差点の渋滞対策」を挙げています。

ここで疑問となるのが、

そもそも野並・島田交差点は渋滞しているのか?

という点です。

名古屋市は、かつて慢性的な渋滞が課題となっていた野並交差点および島田交差点について、道路改良を実施してきました。

その結果、渋滞はほぼ解消しており、行政側の説明も「渋滞」ではなく「混雑」という表現に変化しています。

これは、名古屋市が公開している「交差点需要率」という数値でも確かめられます。

つまり、そもそも渋滞していないので、道路建設の理由は希薄といえます。


論点② 道路建設で交通量は大きく変化しない

野並・島田交差点に関しては、渋滞はしていなくても、混雑している、というイメージがあるかもしれません。

しかしその混雑も、「弥富相生山線」の道路建設ではあまり解消しません。

名古屋市の資料(2021年作成)によれば、「弥富相生山線」の道路建設によっても、交通量は5%程度しか減少しないことが判明しています。

現況 整備なし 整備あり
野並周辺の交通量 25,600 27,100 25,500

論点③ 市の説明は科学的な根拠に基づいているか?

名古屋市の「渋滞対策」という説明について、さらに科学的・学術的に検証してみます。

交通工学の基本に照らすと、以下の疑問が浮上します。

1. 交通量の予測はそもそも難しい

予測に使われる従来の「四段階推定法」は、「道路が便利になったから車移動を増やそう」という誘発需要(新しい道路が自ら生み出す新たな交通量)を過小評価する欠陥が指摘されています。

交通量の予測はそもそも難しい、とされます。

予測交通量は、交通容量比(V/C比)や事業の費用便益比(B/C)を計算する上で、最も基本的なデータとなります。

名古屋市が示した予測交通量は適切かどうか、交通工学の知見に基づいて具体的に考えてみます。

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2. 本質的な渋滞対策は、道路建設ではない

「誘発交通」という現象により、渋滞対策を目的として道路を新設しても、期待する効果が得られないケースがあります(ダウンズ・トムソンのパラドックス)。

そのため、交通政策の世界では、「車が増えたから道路を造る」という古い考え方から、不要な移動を減らし公共交通へ転換するASI(回避・転換・改善)という考え方が重視されます。

道路建設ありきで計画を推し進める名古屋市には、この観点が欠落しています。

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3. 交通容量比(V/C比)の評価は適切か?

都市部では、交差点がボトルネック

都市部の道路計画では、交差点がボトルネックになります。

名古屋市の都市計画道路「弥富相生山線」についても、「周辺交差点がどれだけ混雑するか?」が重要な論点になります。

実際の道路計画では、「交通容量比(混雑度)」という指標が使われています。

2026/3/1の説明会資料には、昭和高校交差点と久方交差点の交通容量比(V/C比)について、「1.0未満だからOK」と、あたかも問題がないように記載しています。

しかし、本当に問題がないのでしょうか?

交通容量比(V/C比)についても、交通工学の知見に基づいて具体的に検証してみます。

追記

交差点の場合は、「交通容量比」ではなく、より厳しい基準の「交差点需要率」で判定します。

すなわち、

  • 道路の場合:「交通容量比」が1.0未満だと、渋滞していない
  • 交差点の場合:「交差点需要率」が「許容需要率」未満だと、渋滞していない

となります。

したがって、昭和高校交差点と久方交差点の混雑度は、交通容量比(V/C比)ではなく、より厳しい交差点需要率で判定すべきです。

名古屋市の説明には誤りがあり、再説明が必要です。

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論点④ 費用便益比(B/C)が破綻している可能性

公共インフラ投資の妥当性を測る最大の指標が「費用便益比(B/C)」です。

しかし、弥富相生山線の計画は、経済的な算盤(そろばん)が破綻している可能性があります。

1. 1日7,700台という予測交通量

市側の予測では、新道の交通量は「7,700台/24h(5,700台/12h)」。

これは都市部の幹線道路としては、かなり低い交通需要です。

掛け算のベースとなる交通量が少なければ、投資に見合う「時間短縮便益」は小さくなります。

2. 周辺交差点の混雑の悪化

資料によれば、「弥富相生山線」が開通することで、周辺の「昭和高校前交差点」の交通容量比は 0.615(円滑)から 0.750(混雑開始)へ、「久方交差点」は 0.308 から 0.670 へと大幅に悪化します。

市側は「1.0未満だからOK」と強弁しますが、「税金と環境を犠牲にして、周辺の混雑をわざわざ悪化させる」ことの費用対効果(B/C)はどう計算されているのでしょうか?

3. 不透明な「総事業費」

便益(B)の低さが懸念される一方で、分母となる「総事業費(C)」の最新の試算が明確にされていません。

これでは市民が事業のコストパフォーマンスを正しく評価することは不可能です。

4. 「外部不経済」を計算に組み込んでいるか?

道路建設にともない、住環境や生態系などに負の影響が発生します。

この負の影響を「外部不経済(環境コスト)」と呼び、道路計画の際には、費用便益比(B/C)の計算に組み込む必要があります。

「弥富相生山線」の場合は、ヒメボタルの貴重な生息地ということもあり、「外部不経済」はきわめて大きな問題となっています。

しかし、この「外部不経済」という問題点については、議論すらされていません。

この論点については、問題点⑥「財政問題と、公共事業としての不適格性」で詳述します。

5. 費用便益比(B/C)の再算定を拒否

名古屋市は、名古屋市会の土木交通委員会にて、費用便益比(B/C)の再算定を拒否しています。

名古屋市は、最新のデータをもとに費用便益比(B/C)を厳格に計算し直し、本当に税金を使って行う価値があるのかを市民に開示するが義務があります。

6. それでも、あえて試算をすると

費用便益比(B/C)の正確な計算には、市が持っているはずの詳細データ(走行速度・所要時間の変化など)がなければ本来不可能です。

それでも、あえて大まかな「桁感」をつかむために、簡単な試算をしてみました。

結果としては、B/Cは1.0を大きく下回っている可能性が高い、といえます。

この道路計画は、交通工学の観点からも費用対効果(B/C)は見合っていない、といえます。

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論点⑤ 名古屋市のデータの矛盾点

また、名古屋市の提供している交通データについても、資料の数値に矛盾点があります。

昭和高校前交差点について、2021年3月30日開催の「弥富相生山線の道路建設に係る学術検証懇談会」の資料に、「交差点需要率」のデータが掲載されています。

それによると、

昭和高校前交差点:

  • 交差点需要率(R7整備なし):0.870
  • 交差点需要率(R7整備あり):0.825
  • 許容需要率:0.900

このデータだけを見ると、弥富相生山線を整備した方が、昭和高校前交差点の交差点需要率はむしろ改善する(0.870→0.825)という結果になっています。

ところが、2026年3月1日の住民説明会資料では、同じ昭和高校前交差点について、まったく異なる指標と数値が示されています。

「交通量の増加は予測されますが、交通容量比は1.0未満であり交通処理能力以内に収まります」 A方向【朝8時】:交通容量比 整備なし0.615 → 整備あり0.750

こちらは、弥富相生山線を整備すると、昭和高校前交差点の混雑度がむしろ悪化する(0.615→0.750)という、正反対の傾向を示す数値です。

すなわち、名古屋市の示すデータに矛盾が生じています。

  • 適用すべき基準を間違っている
  • データが矛盾している

という2つの問題がある以上、もはや名古屋市の資料が信用できない、という事態になっています。

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論点⑥ 時間短縮効果への疑問

名古屋市は、「弥富相生山線」の整備効果として、一般車両・緊急車両の移動時間短縮を挙げています。

しかし特にラッシュ時など、新設道路の両端で新たな渋滞が発生したら、「時間短縮効果」どころか、現行ルートのほうが早くなることもあり得ます。

また、上記で示したように、当局の示すデータは、信頼性が欠如しています。

「誘発交通」が織り込まれていない可能性もあります。

このように「時間短縮効果」は、多くの不確実性の上に成り立っています。

時間短縮効果が怪しければ、B/Cも怪しくなる

「時間短縮効果」は、費用便益比(B/C)の主要な要素です。

つまり、時間短縮効果が怪しければ、B/Cも怪しくなります。

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まとめ

このように、交通工学や交通政策を通してみる弥富相生山線の計画は、名古屋市が提供した少ないデータからでも、

  • 「作ることで周辺の交通環境がかえって低下」
  • 「経済的合理性(B/C)も怪しい」

という矛盾を露呈しています。

このような計画に、市民の貴重な税金を投入することは、到底理解が得られるものではない、といえます。


参考資料

下記は、弥富相生山線の折衷案に関する説明会で配布された「説明資料」のデータです。

交通量予測

弥富相生山線(予測) 菅田橋〜下山畑 高針大高線
交通量 台/12h 5,700(7,700/24h) 12,056 16,824

【昭和高校前交差点】 A方向 朝8時

ピーク1h 整備なし 整備あり 差及び判定
A方向・全体交通量 503 593 +90
A方向・直進交通量 337 409 +72
交通容量比 0.615 0.750 1.0未満

【久方交差点】 B方向 夕18時

ピーク1h 整備なし 整備あり 差及び判定
B方向・全体交通量 84 356 +272
B方向・直進交通量 15 140 +125
交通容量比 0.308 0.670 1.0未満

出典