名古屋市は、「弥富相生山線」の整備効果として、一般車両・緊急車両の移動時間短縮を挙げています。

資料には、区間ごとの短縮時間が細かく記載されており、最大で4.8分の時間短縮という数字が示されています。

数分とはいえ、この「時間短縮」は、この道路計画が掲げる数少ない具体的なメリットの一つです。

しかし、この効果を素直に受け取ってよいのか、いくつかの疑問があります。


新設道路の両端が、そのまま渋滞ポイントに

弥富相生山線は、緑地を貫通して久方交差点・昭和高校前交差点に接続する計画です。

ところが、これまで確認してきた市の資料そのものが、まさにこの2つの交差点で、整備後に混雑が悪化するという予測を示しています。

  • 久方交差点:交通容量比 整備なし0.308 → 整備あり0.670(B方向、夕方18時)
  • 昭和高校前交差点:交通容量比 整備なし0.615 → 整備あり0.750(A方向、朝8時)

これは、単純に見ても看過できない矛盾です。

道路の途中区間を速く走れるようになったとしても、その道路が接続する出入り口(交差点)で新たに渋滞が発生してしまえば、トータルの移動時間はほとんど変わらない、あるいは悪化する可能性すらあります。

高速で走れる区間がどれだけ延びても、信号待ちの列に並ぶ時間が伸びてしまえば、意味が薄れてしまうのは当然のことです。

特にラッシュ時間帯には、この新たな交差点の混雑が、時間短縮効果を大きく相殺してしまう可能性があります。

最悪の場合、これまで通りの迂回ルートを使った場合のほうが所要時間が短くなる、という結果になることも、十分に考えられます。


そもそも、この数字自体に不確実性がある

前回整理した通り、昭和高校前交差点については、行政が保有するデータの間に、見過ごせない不一致があります。

  • 2021年の資料(交差点需要率):弥富相生山線を整備すると、昭和高校前交差点の交差点需要率はむしろ改善する(0.870→0.825)
  • 2026年の資料(交通容量比):同じ交差点について、整備すると悪化する(0.615→0.750)

同じ交差点について、指標も、示された傾向すらも異なる2つのデータが存在しているという状況は、そもそも「時間短縮効果は何分です」と、小数点第一位まで具体的に断定できるほど、この予測に確実性があるのか、という根本的な疑問を生じさせます。


「誘発交通」という、もう一つの目減り要因

これまでの記事でも触れてきた通り、道路が新設・拡張されると、一時的に移動がスムーズになった分だけ、新たな交通需要を呼び込んでしまう「誘発交通」という現象が、交通工学ではよく知られています。

弥富相生山線が開通し、当初は多少速く走れるようになったとしても、それによって新たにこの道路を使い始める車が増えれば、久方・昭和高校前交差点の混雑は、当初の予測以上に進む可能性があります。

実際、これまでの学術検証委員会の議事録でも、複数の委員が「誘発交通の予測は学術的に困難で、分析は未実施」と明言していました。

つまり、時間短縮効果の予測自体に、そもそも誘発交通の影響が十分に織り込まれていない可能性が高い、ということです。


2010年の学術検証委員会が、すでにこの矛盾を指摘していた

実はこの問題、今になって初めて指摘されたものではありません。2010年の学術検証委員会・第5回において、すでに同じ懸念が示されていました。

緊急車両の到着時間短縮という期待がある一方、周辺道路での新たな渋滞・抜け道発生の懸念があり、プラス・マイナスが交錯するため「クエスチョンマークをつけるべき」と山下委員長は述べています。

「時間短縮というプラス効果」と「新たな渋滞や誘発交通というマイナス効果」が、同じ道路計画の中で同時に発生し、互いに打ち消し合う可能性がある、という構造的な問題は、専門家には分かりきっていた、ということです。

16年前に投げかけられた「クエスチョンマーク」は、2026年の最新資料を見ても、まだ解消されていないように見受けられます 。


時間短縮効果が怪しければ、B/Cも怪しくなる

「時間短縮効果」は、費用便益比(B/C)の主要な要素です。

費用便益比(B/C)は、車1台あたり1分の短縮効果があれば40円の便益が発生する、という前提で計算されます。

つまり、時間短縮効果が怪しければ、B/Cも怪しくなります。


まとめ

  • 弥富相生山線には、最大4.8分の時間短縮効果があるとされていますが、その道路が接続する久方・昭和高校前交差点では、整備によって新たな混雑が発生すると、市の資料自体が予測しています。
  • 特にラッシュ時間帯には、この新たな交差点の混雑が時間短縮効果を相殺し、現行の迂回ルートとほとんど変わらない所要時間になる可能性があります。
  • 昭和高校前交差点については、2021年と2026年のデータで、整備効果の傾向そのものが食い違っており、時間短縮効果の予測にどこまで確実性があるのか、疑問が残ります。
  • 「誘発交通」の影響が十分に織り込まれていない可能性もあり、実際の効果はさらに目減りするおそれがあります。
  • こうした懸念は、2010年の学術検証委員会の時点で、すでに委員長自身によって指摘されていました。

多くの不確実性の上に立つ数字

数分間の時間短縮というメリットは、それ自体が、これだけ多くの不確実性の上に成り立っている数字です。

名古屋市には、久方・昭和高校前交差点の混雑悪化を織り込んだ上で、ラッシュ時を含めた実質的な時間短縮効果を、あらためて具体的に示していただく必要があると考えます。