はじめに
渋滞対策というと、
- 「道路を広げればよい」
- 「新しい道路を造れば渋滞はなくなる」
と思われがちです。
道路建設推進派の主張にも、「道路を造れば渋滞は解決する」という素朴な思い込みがしばしば見受けられます。
しかし、交通工学では必ずしもそうではありません。
「道路を増やしても、長期的には再び渋滞が発生してしまう」という、こうした素朴な思い込みに反する現象が知られています。
これがダウンズ・トムソンのパラドックス(ダウンズの法則)です。
道路を広げても渋滞は戻る
道路を広げると、最初は確かに車が流れやすくなります。
しかし、
- 他の道路から車が移る
- 電車やバスから車へ転換する
- 新しい移動が増える
という変化が起こります。
これは前回の記事で紹介した誘発需要です。
道路が便利になるほど利用者が増え、最終的には再び交通容量の限界まで交通量が増加します。
これが、ダウンズ・トムソンのパラドックスです。
公共交通にも影響する
道路整備が進むと、
- 電車利用者が減る
- バス利用者が減る
- 減便される
- 公共交通がさらに使いにくくなる
という悪循環が起こることがあります。
その結果、さらに自動車利用が増え、都市全体では移動効率が低下してしまいます。
つまり、「道路だけ便利にする」のではなく、道路と公共交通のバランスを保つことが重要なのです。
世界の交通政策は変わってきている
近年では、「道路建設によって渋滞を解決する」という考え方から、交通需要そのものを管理するという方向へ転換しています。
代表的な施策は、
- 公共交通の充実
- 交通需要マネジメント(TDM)
- 自転車・歩行者空間の整備
などです。
ASIフレームワーク
こうした考え方を体系化したものがASI(Avoid・Shift・Improve)というフレームワークです。
1. Avoid(回避)
不要な移動を減らす。
例:テレワーク、コンパクトシティ
2. Shift(転換)
自家用車から公共交通や自転車へ転換する。
3. Improve(改善)
EV化や物流効率化など、交通そのものを効率化する。
世界では標準的なフレームワーク
世界各国では、このASIの考え方をもとに交通政策が進められています。
2010年の「相生山緑地の道路建設に係る学術検証委員会」でも、林副委員長がこの3段階(回避・転換・改善)を紹介しています。
名古屋市でも考えるべきこと
道路整備によって一時的に渋滞が改善したとしても、長期的にその効果が続くとは限りません。
都市計画では、
- 新しい道路は本当に必要か
- 公共交通で代替できないか
- 周辺環境への影響はどうか
を総合的に検討する必要があります。
「学術検証委員会」でも、交通需要マネジメントや公共交通を含めた総合的な交通政策の必要性が指摘されています。
まとめ
ダウンズ・トムソンのパラドックスは、「道路を造れば渋滞は解決する」という単純な発想では都市交通の問題は解決しないことを示しています。
それだけでなく、自動車利用が増えることで公共交通の利便性が低下し、都市全体の移動効率が悪化する悪循環も発生させます。
だからこそ、現代の都市交通政策では、道路建設だけに依存するのではなく、公共交通の充実や交通需要マネジメントを組み合わせた総合的なアプローチが重視されています。
道路を造るかどうかを議論する際にも、「どれだけ車を流すか」だけでなく、「どのような交通体系を目指すのか」という視点から考えることが重要です。