交通容量比から考える道路計画

このページでは、「弥富相生山線」道路計画の資料を読むための、交通工学の基礎知識についてまとめています。

この記事では、「交通量予測」に続いて、交通容量比(V/C比あるいは混雑度とも呼ぶ)の解説をします。


都市部では、交差点がボトルネック

都市部では、道路そのものより、交差点がボトルネックになります。

例えば4車線道路でも、信号交差点が処理できなければ渋滞します。

したがって、名古屋市の都市計画道路「弥富相生山線」についても、交通工学の視点から見ると、

「周辺交差点が、車の通行を処理できるかどうか」

が重要な論点になります。

実際の道路計画では、「交通容量比(V/C比あるいは混雑度)」という指標が使われています。

「交通転換」と「ボトルネック移動」

新しい道路ができた時は、交通はそちらへ移動します。

例えば、今まで野並交差点を通っていた車が、「弥富相生山線」経由へ移ると、新しい道路は便利になっても、その先の交差点に交通が集中する可能性があります。

これを、

  • 交通転換
  • ボトルネック移動

などと呼びます。

「弥富相生山線」でも、ボトルネック移動による、昭和高校前交差点と久方交差点の「交通容量比」の変化が重要な論点となります。


交通容量比とは何か?

道路の健康診断のような数値

交通容量比(V/C比)とは、

道路や交差点に流れ込む交通量が、その道路の処理能力(交通容量)の何%に達しているか

を示す指標です。混雑度とも呼ばれます。

計算式は非常にシンプルです。

交通容量比 = 交通量 ÷ 交通容量

例えば、

  • 交通容量(その交差点の処理能力):1000台/時
  • 実際の交通量:700台/時

なら、交通容量比は0.70です。


1.0が危険ライン

一般的には、

交通容量比 状態
0.75未満 余裕があり快適
0.75~1.00 混雑気味だが流れる
1.00前後 限界状態
1.00超 渋滞発生

と考えられています。

つまり、交通容量比(V/C比)は、道路や交差点が渋滞するかどうかを判断するための指標です。


交通量予測の目的は、交通容量比

一般的に、交通量予測の目的は、「将来何台通るか」を知ることだと思われています。

しかし行政や交通技術者にとっては、交通量予測そのものが目的ではなく、最終的な目的は、

予測交通量を使って交通容量比(V/C比)を計算し、将来の交通状態を評価すること

です。

言い換えれば、交通量予測は診断のためのデータであり、交通容量比(V/C比)こそが診断結果といえます。


交通容量比を計算する方法

交通容量比(V/C比)の計算式は、

交通容量比 = 交通量 ÷ 交通容量

なので、「交通量」と「交通容量」の2つのパラメータを導出すれば良いことになります。

1. 交通量を予測する

交通量予測については、別のページで解説していますが、一般的には、「四段階推定法」と呼ばれる手法が使われます。

  1. 人の移動量を予測
  2. どこへ向かうか予測
  3. 車か鉄道かを予測
  4. どの道路を使うか予測

という流れで、将来の交通量が求められます。

関連記事

交差点ごとの交通量を計算

交差点には、左折・右折といった分岐があります。

そこで、予測された交通量を、さらに、

  • 左折
  • 直進
  • 右折

へ分解します。

交通量予測の前段階で導出した「OD交通量」から、各交差点への流入方向を推定します。

2. 交通容量を計算

交通容量とは、「1時間に最大何台の車を通せるか」という数字です。

例えば、ある道路が1時間に1000台まで通せるなら、交通容量は1000台/時です。

交通容量の計算方法については、別のページで解説しています。

関連記事


弥富相生山線の場合

名古屋市の予測結果

名古屋市資料では、弥富相生山線の交通量は約5700台/12時間(約7700台/日)とされています。

これは都市幹線道路としては比較的小さい数字です。

昭和高校前交差点

朝ピーク時の予測では、交通量は増加します。

A方向全体交通量:503台/h → 593台/h

交通容量比:0.615 → 0.750

に留まるとされており、市の評価では、

1.0未満なので問題なし

という結論になっています。


久方交差点

こちらは増加幅がさらに大きく、B方向全体交通量は

84台/h → 356台/h

となります。

しかし、交通容量比は0.670に収まるとされています。

交通量は増えるが、交差点の処理能力の範囲内だから渋滞は発生しない

というのが名古屋市の基本的な説明です。


交通容量比の予測は本当に当たるのか?

実は交通工学でも難しい問題

ここで注意が必要です。

交通容量比は単なる測定値ではなく、予測値です。

つまり、予測交通量が変われば、結果も変わります。

0.75と1.0の差は意外と小さい

例えば、交通容量比0.75という結果でも、予測交通量が20%増えれば、0.9近くになります。

さらに、右折車の集中や信号運用の変化が加わると、体感的な混雑は大きく変わります。

そのため、交通工学では交通量予測よりも、交差点予測の方が難しいと考えられています。

「前提条件に依存する」

重要なのは、どの前提で計算したかです。

例えば、

  • 将来人口
  • 交通転換率
  • 誘発需要
  • 信号現示

が変われば、結果も変わります。

したがって、市民が確認すべきなのは、「予測値」だけでなく、「予測の前提条件」とも言えます。


追記:交差点の場合は「交差点需要率」で判定

ここまでは、一般的な道路の「交通容量比」について解説してきました。

しかし、特に交差点の場合は、「交通容量比」ではなく、より厳しい基準の「交差点需要率」で判定します。

すなわち、

  • 道路の場合:「交通容量比」が1.0未満だと、通行が機能している=渋滞していない
  • 交差点の場合:「交差点需要率」が「許容需要率」未満だと、通行が機能している=渋滞していない

となります。

1. 野並・島田交差点の場合

野並・島田交差点などについては、2021年3月30日開催の「弥富相生山線の道路建設に係る学術検証懇談会」の資料に、「交差点需要率」が示されています。

すなわち、

野並交差点:

  • 交差点需要率:0.820
  • 許容需要率:0.913

島田交差点:

  • 交差点需要率:0.784
  • 許容需要率:0.913

すなわち、野並・島田交差点の場合は、「交差点需要率」が「許容需要率」未満なので、通行が機能している=渋滞していない、と判定できます。

つまり、そもそも弥富相生山線道路計画は不要だった、ということです。

2. 昭和高校前交差点と久方交差点の場合

昭和高校前交差点と久方交差点の混雑度もまた、交通容量比(V/C比)ではなく、より厳しい交差点需要率で判定すべきです。

しかし、2026/3/1の説明会資料では、久方・昭和高校前について、

「交通容量比は1.0未満であり交通処理能力以内」と当局は主張しています。

すなわち、名古屋市の説明には誤りがあります。

3. 正しい基準で判定すると?

一般的に、交差点需要率は、交通容量比(V/C比)よりも厳しい基準となります。

したがって、昭和高校前交差点と久方交差点の場合は、行政の示した数値よりもさらに逼迫した値となります。

すなわち、正しい基準で判定すると、さらに渋滞リスクが高まる、といえます。

名古屋市による再説明が必要

とはいうものの、当局の説明が誤っているとなると、行政の示した数値そのものも信用できなくなります。

また、昭和高校前交差点のデータに関しては、行政の示した数値に矛盾点があります。

よって、名古屋市による再説明が不可欠です。

関連記事


戦略的環境アセスメント(SEA)のツールとしても

交通容量比は、別のページで説明した戦略的環境アセスメント(SEA)において、ASIアプローチ(Avoid-Shift-Improve)と組み合わせる形で利用されます。

ASIアプローチとは

主に運輸・交通分野における環境負荷低減や脱炭素化を目指すための国際的なフレームワークです。

  1. 交通需要の「回避・削減(Avoid)」
  2. より持続可能な交通手段への「転換(Shift)」
  3. 車両・燃料技術の「改善(Improve)」

の3段階の施策を通じて、効率的でクリーンなシステムを構築します

ASIアプローチと戦略的アセスの組み合わせ

例えば、

  • 道路を作る案: 分母(交通容量)を増やして交通容量比を改善する。
  • 公共交通へ転換する案(Shift): 分子(交通量)を減らすことで、道路を作らず(ゼロ・オプション)に交通容量比を改善する。

というように、異なる政策を実行したときに、周辺道路の交通容量比がそれぞれどう変化するかを客観的に比較・天秤にかけるために使われます。


弥富相生山線で残る疑問

周辺交差点の現状データは十分公開されているのか?

市民の立場から見ると、一つの疑問があります。

それは、

現在の野並交差点や島田交差点の交通容量比はどの程度なのか

という点です。

もし現時点で十分余裕があるなら、「弥富相生山線」は不要、となります。

だからこそ、野並交差点や島田交差点の交通容量比が公開されていないのではないか?

そんな疑念が生じます。

本来は比較が必要

道路計画の妥当性を判断するには、戦略的環境アセスメント(SEA)、すなわち「新道路がある未来」だけでなく、「新道路を作らない未来(ゼロ・オプション)」との比較が必要です。

さらに、周辺交差点を含めたネットワーク全体で、どの程度改善するのかを検証することが重要です。

このための数値が「交通容量比」です。

名古屋市の資料には、「交通容量比」が記載されているので、他の交差点における「交通容量比」も記載すべきです。


まとめ

弥富相生山線をめぐる交通問題で重要なのは、その交通が、

  • どこへ流れ、
  • どの交差点へ集中し、
  • 交通容量比がどう変化するか

です。

交通工学の視点では、道路の評価とは、単に交通量を数えることではなく、都市全体の交通ネットワークが将来も機能するかを判断する作業なのです。

そして市民が検証すべきポイントも、予測結果そのものではなく、その予測を支える前提条件や公開データの十分性にあると言えるでしょう。