当サイトでは、相生山緑地問題について、3つの要因と8つの問題点に整理して検証しています。
このページでは、要因③「ガバナンスの欠如」について、掘り下げていきます。
「ガバナンス」とは
ここでいう「ガバナンス」とは、行政と市議会の役割分担がうまく機能しているかどうかを表す言葉です。
本来の役割分担としては、
- 行政(執行機関):計画を立案し、根拠となるデータを示しながら説明を行う
- 市議会(チェック機関):その計画・説明を監視し、必要であれば修正を求める
という、執行とチェックの「両輪」が想定されています。
問題点⑥〜⑧(環境政策との矛盾、不誠実な合意形成、財政・公共事業のあり方)は、いずれもこの「ガバナンス」という一つの軸から捉え直すことができる問題です。
時代遅れの計画と、自ら掲げた環境政策との矛盾
「弥富相生山線」道路計画は、高度経済成長期の1957年に決定された、古い計画です。
環境意識が極めて低かった時代の遺物であり、環境を大切にする現代社会の価値観とは、根本から相容れません。
河村前市長がいったんストップをかけた計画を、今になって推進する合理的な理由は見当たりません。
名古屋の環境政策と真っ向から矛盾
しかも、この計画は、名古屋市自身が掲げる「生物多様性なごや戦略」「水の環復活なごや戦略」と、真っ向から矛盾しています。
2010年に名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催され、「SATOYAMAイニシアティブ」として里山保全が国際公約となったことを踏まえれば、名古屋市には国際的な責任 があります。
相生山緑地は「生物多様性重要エリア」
2024年7月には「名古屋市内の生物多様性重要エリアマップ」が公開されました。
このマップにおいて、相生山緑地は全域が「生物多様性重要エリア」に含まれています。
それでも生態系を破壊しかねない計画が進められているのは、環境部局と道路部局が十分に連携できていない、縦割り行政の弊害だと考えられます。
公約破棄と、住民合意形成の軽視
現市長は、道路事業を止めていた「河村前市長の方針を丸ごと継承する」と約束して当選したにもかかわらず、それを覆して工事再開へと舵を切りました。
しかも、住民説明会という重要な場に、現市長は一度も出席していません。
2026年3月の住民説明会も、他市の祭りに参加するために欠席しています。
首長としての姿勢として、きわめて不適切だと言わざるを得ません。
市民全体の問題
相生山緑地は、名古屋市民全体の共有財産であり、建設費用も市民全体の税金でまかなわれます。
それにもかかわらず、当局の対応は一部の地元住民の意見ばかりを取り上げ、それ以外の意見が十分に反映されているとは言えません。
入り込み対策も、一部地域だけ
たとえば「入り込み対策」も、山根学区の一部地域だけを対象としており、周辺の他学区への配慮が抜け落ちています。
実際、市民から寄せられた意見にも、住環境を心配する声が数多く寄せられています。
住民同士の対立
またこの計画は、長年にわたって住民同士の意見対立を生んできました。強引な工事再開は、この対立や分断を、さらに深刻化させかねません。
学識の権威を借りた、恣意的な世論形成
また、中立であるべき学識者ヒアリングにおいても、「つなぐ以外ない」といった、道路推進を後押しするような発言だけが都合よく切り取られ、工事再開の大義名分として利用されている実態があります。
学識者の権威を借りた、恣意的な世論形成だと言わざるを得ません。
- 参考記事:学識の名に値しない「学識者ヒアリング」
財政の不透明性と、優先順位の不在
名古屋市の財政は、過去最大約922億円の収支不足という、異例の事態に直面しています。
資材高騰や人件費上昇によって、この道路の工事費も大幅に膨らんでいるはずですが、市は最新データに基づく「費用便益比(B/C)の再算定・開示を拒否しています。
将来「負の遺産」に
公共インフラの議論では、完成後にかかり続ける維持管理費こそが、長期的な財政負担の本体です。
加えて、少子高齢化に伴い、相生山緑地周辺の将来の交通量は減少傾向にあると、市の資料自身が予測しています。
道路の必要性が長期的に薄れていく一方で、維持管理にかかる総コストは変わらないため、市民一人あたりの財政負担は、むしろ増えていくことになります。
この道路が将来「負の遺産」となるリスクも絵空事ではありません。
「環境コスト」と緑の経済的価値を軽視
また森の乾燥による損失、ヒートアイランド化に伴うエアコン代や健康被害、洪水対策費といった「環境コスト(外部不経済)」が計算から排除されている一方、相生山緑地そのものが持つ「自然資本 」としての経済的価値も、正しく評価されていません。
優先順位の問題
さらに、名古屋市は他にも、インフラや教育施設の老朽化対策など、優先度の高い課題を数多く抱えています。
それらを後回しにしてまで、この道路計画を優先する理由が、どこにあるのでしょうか?
公共事業としての原則を満たしていない
税金を使った公共事業には、本来、必要性・緊急性、合理性、比例性、持続可能性、政策整合性、そして統治性(ガバナンス)といった原則が求められます。
しかし、このサイトで検証した通り、この道路計画は、そのどの原則についても、十分に満たしているとは言えません。
それにもかかわらず、市議会はチェック機能を十分に果たせておらず、2026年度予算案には、折衷案の実現に向けた調査・設計費が、すでに計上されています。
- 参考記事:公共事業に求められる要件とは?
広沢市長は、誰の・どんな意見に基づいて判断したのか
ここまで見てきた通り、市の説明や推進派の意見には、疑問点が数多く残されています。
広沢市長には、どのような意見を、どのような根拠に基づいて聞き、工事再開という判断に至ったのかを、あらためて明らかにする義務があると考えます。
ガバナンスは、独立した問題でもある
要因③(ガバナンスの欠如)は、環境や住環境への影響とは独立した、行政のあり方そのものについての問題です。
この点を掘り下げてみると、「弥富相生山線」道路計画において、ガバナンスの欠如もまた、主要な要因の一つであることが浮き彫りになりました。
名古屋市の行政には、どのような問題があるのか?
なぜ、市民のまっとうな意見が、政策に反映されないのか?
この問いは、相生山緑地の問題を超えて、名古屋市政全体の課題として、別途独立した形でも検証されるべきだと考えます。