平成22年(2010年)開催の「学術検証委員会」の議事録で、相生山緑地問題に関する「学術的枠組み」が、下記のように示されました。

2010年に示された学術的枠組み

分野 視点の名称 具体的な内容・課題
A 経済の機会 周辺道路の渋滞緩和、産業の活性化、雇用安定、アクセス性。
B 教育・文化の機会 次世代への自然誌教育、歴史文化の継承、地域コミュニティ。
C 快適性・リラクゼーション ヒメボタルの鑑賞、都市景観、緑地の憩い機能。
D 安全・安心 救急・消防活動の円滑化、災害時の避難路、交通安全。
E 環境の持続性 生物多様性(ホタル・オオタカ等)、低炭素都市、水循環の保全。

新しい枠組みが必要

しかしながら上記の枠組みは、策定が15年前と古く、これからの時代の枠組みとしては不足があります。

また第4回議事録の要約で指摘したように、全体の順序にも問題があります。Eを土台に置くべきです。

そこで、環境・都市計画の潮流である「グリーンインフラ」「自然資本(ナチュラル・キャピタル)」の視点を取り入れて、枠組みをアップデートしました。

最大の変化は、環境を単なる「一項目」ではなく、都市システムを支える「全ての土台(基盤層)」として定義し直した点にあります。

新しい枠組み


新しい枠組み(2026年版)

階層 具体的な内容・現代的アップデート
④ 価値層
(QOL・結果)
【生態系から文化・体験価値へ】
・ヒメボタル鑑賞を通じた地域アイデンティティの形成。
・八事層が育む豊かな自然誌教育と次世代への継承。
・緑地の癒やし効果によるウェルビーイングの向上。
③ 機能層
(利便性・サービス)
【外部不経済の内部化とレジリエンス】
長期環境コストの算入:地下水脈破壊や乾燥化に伴う将来的な環境修復費用の内部化。
機能的防災:救急・消防活動の円滑化と、緑地が持つ延焼遮断・避難場所機能の最適化。
・効率的かつ低炭素な交通アクセス性の確保。
② 構造層
(都市構造)
【グレー×グリーンインフラの統合】
・道路(グレー)と緑地ネットワーク(グリーン)の調和的配置。
・「弥富相生山線」の代替案(D案:折衷案など)における、環境負荷を最小化する空間設計。
・雨水浸透・貯留機能を備えた都市構造の構築。
① 基盤層
(自然資本)
【全ての前提となる水循環と生態系】
水循環の保全:八事層の地下水脈、湧水の維持(水の環復活プランとの連動)。
生物多様性の核心:ヒメボタルやオオタカの生息基盤となる樹林地の乾燥化防止。
・気候調整(ヒートアイランド抑制)や土壌保全機能。

アップデートの主要ポイント

  1. 環境を「基盤」へ移動: 以前の枠組みでは「環境(E)」は並列な一項目でしたが、新枠組みでは「水循環や生態系が崩れれば、その上の価値(ホタル鑑賞や経済性)も崩壊する」という因果構造を明確にしました。

  2. 外部不経済の内部化: 「経済(A)」の評価において、単なる建設費や時間短縮便益だけでなく、道路建設が引き起こす「水環境の悪化」や「生態系損失」を将来的な経済コストとして捉える視点を追加しました。

  3. グリーンインフラへの対応: 道路を単なる移動手段とするのではなく、雨水浸透機能や生物の移動経路(エコロジカル・ネットワーク)としての機能を持たせる、現代的な都市インフラの考え方を反映させました。

  4. 「生態系 → 文化」の連鎖: ヒメボタル(生物)を「環境(E)」に、鑑賞を「快適性(C)」に分けるのではなく、豊かな基盤があるからこそ、高い文化・教育価値が生まれるというストーリーに再構成しました。

新しい枠組みの活用方法

たとえば、道路建設推進派が主張する交通利便性は「③ 機能層」に属します。

道路建設反対派が主張する水環境や生態系などは、「① 基盤層」に属しており、経済学的には、自然資本(ネイチャーキャピタル)となります。

結論:道路は建設すべきではない

たとえば、相生山緑地問題のように、「水環境や生態系」と「交通利便性」が対立した場合、どう考えるべきでしょうか。

この新しい枠組みを用いると、長期的な都市計画では、水環境や生態系などの「① 基盤層」あるいは自然資本は、交通利便性の「③ 機能層」に優先します。

これによって、相生山緑地問題に関しては、道路は建設すべきではないと判断できます。