第4回「相生山緑地の道路建設に係る学術検証委員会」議事録 要約

  • 日時: 2010年(平成22年)8月23日 午後2時〜4時
  • 会場: 名古屋市役所 西庁舎12階 第10会議室
  • 参加: 委員8名(寺井委員欠席)、武田オブザーバー委員、傍聴16名
  • 報道: 1社(建通新聞)、フリージャーナリスト1名

資料


第4回の位置づけ

第3回から約4ヶ月が経過し(その間の6月4日に現地でヒメボタル観察を実施)、この回は「個別問題の指摘」から「評価の構造化」への転換点となりました。

山下委員長が提案したQOL(市民生活の質)フレームワークが初めて提示され、委員会の評価枠組みが初めて明示的な形をとっています。


山下委員長によるQOLフレームワークの提案

委員長は「資料1」として、道路建設を含むあらゆる公共事業を評価するための5軸フレームワークを提示しました。

5つの評価軸(A〜E)

軸 内容
A 経済機会(産業活性化・雇用安定・渋滞緩和・アクセス性)
B 生活・文化機会(次世代への自然誌教育・歴史文化の継承・地域コミュニティ)
C 快適性・リラクゼーション(ヒメボタル鑑賞・都市景観・緑地の憩い機能)
D 安心・安全(救急・消防活動の円滑化・災害時の避難路・交通安全)
E 環境持続性(生物多様性・低炭素都市・水循環の保全)

このフレームワークの核心的な意義を、委員長は次のように説明しています。

道路を造りますか、自然がダメになりますよという2つの対立的な見方ではなく、我々の生活を将来に渡って、社会をこういう形でこういう視点で捉えて一つのことをやっていく道筋を明らかにしましょうという視点から、この委員会で一定の見解を出していきたい(山下委員長)

そして、名古屋市の既存計画(生物多様性なごや戦略、水の環復活プラン、なごや交通戦略など)が、この5軸に分散してそれぞれ存在するにもかかわらず、相互に整合性がとれていないことを問題の根源として示しました。

それぞれの基本計画の整合性を誰がとったのか。議会か。…それぞれの個別のところで綱引きをするので、こうなっていると思うのです(山下委員長)


主要な論点と委員・オブザーバーの発言

論点①:都市計画決定の「永続性」神話への批判

武田オブザーバー委員は、行政から「都市計画が決まったら何百年でも道路を引く」と言われた経験を明かし、計画の時間的有効性そのものに疑問を呈しました。

都市計画があるからどんなに状態が変わって誰ひとりいなくなっても道路を引きますよ、と市役所は私に言われたんです。しかし、それは違います。このような道路計画を止めたり変えたりする項目がなかったんです(武田オブザーバー委員)

加藤委員はこれを受け、都市計画決定の「手続き的拘束力」と「実質的妥当性」は別問題であると整理しています。

私がこの委員会に参加したのは、都市計画決定されたら未来永劫変えられないとするべきではないと思っているからです(加藤委員)

また、当初の計画決定の根拠についての推測も率直に述べました。

道路密度論に基づいて、この相生山の辺りはかなり空いているので、島田と野並の間に1本入れておく必要があるのではないかとなったのではないでしょうか。すごくいい加減なように聞こえるのですが、かなり当たっているような話でもあるし(加藤委員)

秀島委員は、上位計画と下位計画の階層構造の問題を整理しました。

上位の計画を考えないと下位の計画を修正することもできません。そういう計画の確認さえも昔はなかったということを前提にこの話はしていくべきだと思います(秀島委員)

さらに、この委員会の役割を提言として残すことを提案しています。

例えば提言でそれを言い残していくべきではないかと思います(秀島委員)

論点②:「ゼロ・オプション(with/without)」の検証が核心

加藤委員はこの回でも、評価の最優先事項を明確に主張しました。

造らないというオプションはあり得ないのか、造らないというオプションは造ることによって得られる効果に比べて決定的に劣るものなのか、ということを確認しなければいけないということだと思います(加藤委員)

問題項目シートですが、with、without の差ということに絞るべきです。道路を造るか造らないかによってどう変わるのかという項目だけにして(加藤委員)

また、道路建設後に新たに生じる渋滞ポイントについても具体的に指摘しています。

withになった時に新たな渋滞ポイントが発生するということが問題です。昭和高校前、あるいはその先、手前の久方方面、下山畑などで新たに発生すると思われます(加藤委員)

この点については、交通ネットワーク予測そのものの精度不足も併せて指摘されました。

「一つ山住宅口」から「下林交差点」にかけてなど、主要な抜け道となっている区間がネットワーク予測に組み込まれていないこと、また久方方面や昭和高校前から先の区間は信号が複雑であるにもかかわらず、その複雑さが十分に考慮されていないことが問題として挙げられています。

  • 昭和高校前
  • 久方
  • 下山畑

という新たな渋滞ポイントは、2026年の折衷案説明会で示された交通容量比(V/C)のデータにおいても、悪化が予測されています。

論点③:トレードオフの存在と意思決定の限界

加藤委員は、フレームワークの有用性を認めつつも、最終的な意思決定の難しさを示しました。

AからEの間で、どれはどれに優先するべきか、どれとどれのトレードオフが起こった時には、どうするべきかということが必要になってきます。そこは、主観的な、価値観的な問題がでてくることなので、どちらが大事だと言うことまではこの委員会では難しい(加藤委員)

さらに、不確実性の高い分野(生態系)では「造らない」選択の方がリスクが低いという、「予防原則」の論理を提示しました。

取り返しのつかない結果になることもあるでしょう。それに比べれば、道路をもし造らなくてそれに対応できるようなものがあれば、そちらの方が不確実性が少ないので、そちらの方がいいでしょう(加藤委員)

松本委員は、需要予測と費用便益比はあくまで「意思決定の題材」に過ぎないことを強調しています。

需要予測の結果というのは意思決定の一つの題材でしかなく、交通渋滞が緩和されるからそのまま即ゴーサインとはなりません(松本委員)

費用として必ずしもすべてのものを計上できるわけではないからです。例えば、快適性や環境もそうですが、すべてを金額に換算するのは非常に難しい(松本委員)

論点④:生態系評価の根本的困難さ(増田委員)

増田委員は、生態系への影響評価の複雑性を率直に示しました。

分断化が必ずしも生物多様性に悪影響ばかり及ぼすかというとそういうことはありません。すべての生物を調べなければいけませんが、それはできませんので、生態系の管理はできないと思っていただいた方がいいです(増田委員)

ホタルは将来的に放置してもいなくなってしまいます。それをどうするかという計画を立てない限りは、どうやって保護したらいいかということも言えません(増田委員)

緑地を放置すれば竹林化が進み、かえってヒメボタルの生息に適さない環境になりかねないという懸念も示されました。

「人の手による管理」と緑地の価値をどう両立させるかが、増田委員・足立委員の双方から問われました。

また、大場委員からは、ホタルが単なる生物としてだけでなく、市民が自然と触れ合う「文化資源・教育資源」としての側面も併せ持つという視点が示されました。

この発言を受けて武田オブザーバー委員は、学術の中立性について重要な原則を述べています。

道路を造って分断すると生態系が壊れると言わなきゃいけないから言うというのは、学者としては非常に不適切で、いわば一切の配慮なく学問的なものに基づいて発言し、それに基づいて今度は意思の決定者が住民と話し合ったりしながら決めていくという、それがこの検証委員会の基本的なストラクチャーである(武田オブザーバー委員)

論点⑤:「緑地のビジョン」の欠如が根本問題

山下委員長は、道路問題の本質が「相生山緑地をどうするか」というビジョンの不在にあることを改めて指摘しました。

相生山緑地をどう維持発展させるか、それを市民のQOLの中でどう位置付けるかという辺りから入っていかないと、姑息な手段で対応策だけで終わってしまうのではないか(山下委員長)

論点⑥:この委員会の普遍的意義

武田オブザーバー委員は、この委員会の枠組みが名古屋市全体の施策決定プロセス改革のモデルになり得ると述べました。

この5項目の戦略事項というものが、この相生山の委員会をきっかけにして、今後、名古屋市全体として問題となるような事が起こった時に横断的な検討が行われるようなシステムができればと思います(武田オブザーバー委員)

林副委員長は委員会の最終成果物について次のように総括しています。

なるべく簡単に、この表だけあれば、どういうプロジェクトがでてきても、お互いのトレードオフを見ながら検討できるものを作るというのが一番の基本です(林副委員長)


3つのワークシートの提示と、今後の進め方

林副委員長が「①問題項目シート」「②分析データシート」「③分析結果シート(白紙)」の3点を提示し、次回以降の作業の枠組みを示しました。

  • ①問題項目シート:縦軸にA〜Eの5評価軸、横軸に「弥富相生山線」と「他の代替事業」を並べたマトリックス。縦横のトレードオフが視覚化できます。
  • ②分析データシート:各問題項目に対応する既存データ・調査結果の一覧です。
  • ③分析結果シート:次回以降に埋めるべき白紙の評価表です。

林副委員長はこのシートの意義を次のように示しています。

今までは相生山線の事業しか見てこなかった。そして縦軸の経済機会だけを見ていた。「車をどう流すか」だけを考えてきた(林副委員長)

今後は、各委員が提出する問題項目シートをベースに、①5大視点に沿った項目の統合・整理、②現有データで言えることと追加調査が必要なことの精査、③トレードオフのマトリックス化、という3段階で作業を進めていく方針が確認されました。


まとめ:6つの問題点との対応関係

第4回は、「個別問題の指摘」から「評価構造の構築」へと質的に発展した回です。

現行の6つの問題点 第4回での対応
① 時代遅れの計画・政策矛盾 武田オブザーバー委員・加藤委員:昭和30年代の都市計画決定が現代の上位戦略(水の環・低炭素・生物多様性)と整合していないことを、フレームワーク上で構造的に示した
② 不誠実な住民合意形成 秀島委員:手続き的合意と実質的妥当性の乖離を整理し、「提言として言い残す」必要性を主張
③ 科学的根拠を欠いた道路建設効果 加藤委員:「with・without」の比較が核心であり、新たな渋滞ポイントの発生(昭和高校前等)が未検証であることを指摘/松本委員:需要予測・費用便益比はあくまで「題材」であり決定根拠にはなれないと明言
④ 生態系へのダメージ 増田委員:生態系への影響は「わからない」ことを学術的に認め、不確実性そのものを評価に組み込む重要性を示した/大場委員:照明よりも「空が開く」ことによる乾燥・光環境変化の方が影響大と現地観察から指摘
⑤ 水循環の破壊 秀島委員:道路建設後に追加の雨水貯留施設整備が必要となり、その費用が問題項目として明示的に加わった
⑥ 財政・公共事業としての不適格性 QOLフレームワーク全体:費用便益比に含まれない「快適性・環境・文化的価値」を正式な評価軸として組み込んだことで、従来の費用便益評価の不完全性を構造的に示した

武田オブザーバー委員が「名古屋市として初めて、多面的・学術的に施策を評価しようとするモデルケース」と述べているように、この評価構造は、2010年時点で専門家によって提唱されていました。

しかし、行政には採用されませんでした。

QOLフレームワークの評価

このQOLフレームワークは2010年当時としては先進的なものでした。

しかし、現在の視点から見ると、

  • 水環境の長期的なコスト(外部不経済)が内部化されていない
  • 近年重視されるグリーンインフラ・ヒートアイランド対策の観点が組み込まれていない

など、いくつかの限界も指摘できます。


感想

データ不足なのに道路を推進

第4回では、QOLフレームワークという画期的な評価軸が示された一方で、交通予測のデータ不足が、専門家自身の口からも明確に語られました。

データが十分に揃っていないにもかかわらず、「渋滞解消」「入り込み対策」がこの道路の目的として掲げられ続けていたという事実は、あらためて振り返ると見過ごせない点だと思います。

生態系は、わからないことが前提

また、ヒメボタルをはじめとする生態系についても、「わからないことが前提である」という認識が、この回で明確に共有されています。

その後発表された「折衷案」では、「ヒメボタルは大丈夫」といった、より断定的な表現が用いられているように見受けられます。

しかし、2010年の学術検証委員会が積み重ねてきた「わからないことを、わからないと認める」という誠実な姿勢との整合性については、あらためて検証が必要です。

議事録の要約

  1. 「第1回議事録」要約
  2. 「第2回議事録」要約
  3. 「第3回議事録」要約
  4. 「第4回議事録」要約
  5. 「第5回議事録」要約
  6. 「第6回議事録」要約
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