第6回(最終回)「相生山緑地の道路建設に係る学術検証委員会」議事録 要約

  • 日時: 2010年(平成22年)10月29日(金)午後3時〜5時
  • 会場: アイリス愛知2階 コスモス2・3
  • 出席: 山下委員長、林副委員長、足立委員、大場委員、加藤委員、寺井委員、秀島委員、増田委員、松本委員、武田オブザーバー委員(全員出席・委員会成立)
  • 傍聴: 17名
  • 報道: 7社(日本経済新聞、読売新聞、名古屋テレビ、朝日新聞、中日新聞、毎日新聞、東海テレビ)

資料


会議の位置づけ

第6回は全6回の議論を集約し、市長への答申となる「報告書」の骨子・総合評価を確定させる最終回です。

冒頭、相生山緑地自然観察会からヒメボタルに関する冊子の提供を受けたことが報告された後、報告書の章立てと総合評価案について審議されました。


報告書の全体構成(3章構成)

林副委員長から提示された報告書概要案は、以下の構成です。

第1章:委員会の設置と基本的立場

  1. 視点は2段階:①公共事業の企画・立案プロセスそのものの検証、②弥富相生山線という個別事業の検証
  2. 個別検証も2段階:①道路建設自体に係る課題、②生態環境(緑地の生物相)への影響
  3. 立場の明確化:道路建設の「是非(白黒)」を判定するのではなく、課題解決の道筋と根拠を検証・提供するのが委員会の役割であり、判断は行政・政治が行うものとされました。

林副委員長の重要な発言: 「道路建設の是非、白黒を報告するものではありません。(中略)ここがゴチャゴチャになりますと、私どもの持っている能力が使えなくなり、報告そのものが非常に曖昧なものになってしまいます。」

第2章:活動経過の整理

これまでの分析経過(5回分)に加え、

の内容が整理されました。

市民11名の意見は多岐にわたり、代表的なものとして以下が紹介されています。

  • 相生山の動植物の精度の高い調査の必要性
  • 独自アンケートで自然保全を望む声が7割にのぼるとの指摘
  • 道路よりゾーン規制など市民の知恵での解決を求める声
  • 道路建設によるヒメボタル幼虫の多数生息地の消失リスク
  • 東側の荒池緑道との接続を踏まえた緑のまちづくり全体構想の必要性
  • 都市計画決定手続きの「内実」の検証を求める声
  • 渋滞の根本解決にならないとの指摘、人口減少下での必要性への疑問
  • 計画策定段階から市民が関与できる仕組みの必要性

第3章:検証結果(表1〜表6)

  • 表1:QOL5評価軸
評価軸 主な内容
A 経済機会 交通渋滞の緩和、物流・移動の効率化
B 生活・教育・文化機会 自然体験、地域の歴史・文化へのアクセス
C 快適性・リラクゼーション 緑地の恵み、生態系サービス(※今回、環境負荷性から移動)
D 安心・安全性 緊急車両のアクセス、防災機能、生活道路の安全性
E 環境負荷性 汚染、騒音、低炭素社会への影響
  • 表2:弥富相生山線建設に関する問題項目一覧(プラス・マイナス両方を記載)。前回まで環境負荷性(E)に分類していた「生態系サービス」を、快適性・リラクゼーション(C)へ再分類しています(自然の恵みという性格を重視したもの)。
  • 表3:分析に必要なデータの洗い出し
  • 表4:データに基づく解釈
  • 表5:問題点に対する対策
  • 表6:建設した場合のプラス効果/マイナス効果/対策による軽減効果の総合評価(この回の最重要議題)

「6つの問題点」との対応・主な議論

表6(総合評価)の内容

林副委員長が提案した総合評価の骨子は、次の通りです。

プラス効果

  • 周辺道路の渋滞緩和(ただし古いデータに基づくため、最新データでは結果が変わる可能性)
  • 緑地へのアクセス向上(データが変わっても変化しない見込み)
  • 緊急車両のアクセス改善
  • 緑地全体の防災機能向上、単一植生化(遷移)の緩和

マイナス効果

  • 誘発交通の増加、緑地への自動車来訪者増加による新たな渋滞・駐車問題
  • 緑地の減少・水圏環境の変化による乾燥化と生物相の貧困化、特にヒメボタル生息環境の劣化

これらは、当サイトで分類した「6つの問題点」の問題点④ 生態系への深刻なダメージ、問題点⑤ 水循環の破壊と乾燥化と直接対応する内容です。

マイナス効果の対策

  • 緑地の体系的・総合的な保全管理方針の必要性
  • データ蓄積の必要性
  • 最新の知識・技術による建設・維持管理(光害対策等含む)

表2のタイトル・分類をめぐる議論(加藤委員)

加藤委員の重要な指摘: 「表2のタイトルは『問題点』ではなく『影響の一覧』とすべき。プラスもマイナスもあるはずのものを『問題点』と呼ぶと、分析未実施のためマイナス欄に入らなかった項目(例:生活道路への通り抜け増加)が総合評価から漏れてしまう。」

「学術に携わる者は『わからない』と言いたくないような気がします。(中略)わからないことが一番恐いというスタンスで総合評価していく必要がある。」

これに対し山下委員長も同調し、「わからない」ことを明示すること自体が学術的に重要という認識で一致しました。

山下委員長:「わからないことがわかるのはまだいいのです。わからないことをわからないというのは非常に大きな将来の判断ミスがある」

これは「6つの問題点」の問題点① 時代遅れの計画・アセス不足および問題点③ 科学的根拠を欠く効果の背景にある、データ不足・不確実性の扱い方に関する重要な論点です。

個別計画の矛盾と上位計画の欠如

武田オブザーバー委員からは、重要な発言がありました。

「名古屋市の従来のいろいろな都市計画、基本計画は相互に非常に矛盾しています。開発系の計画ならば道路をつくれ、環境系の計画を使えば道路をつくってはいけないということになる。」

一方、加藤委員はこれに一部異論を唱えています。

「実はそれほど矛盾しているわけではなくて、一貫してこの道路は、淡々と建設していくべきだということで進んできた」「既存計画を見ても非常に現状肯定的なところがある」

この論点は「6つの問題点」の問題点① 時代遅れの計画、特に「グランドビジョンの欠如・縦割り行政の弊害」と対応するものです。

「オプション(造らない場合)」をめぐる論争

加藤委員・増田委員から、造る場合だけでなく造らない場合の評価(表が逆転した場合の分析)も示すべきとの主張がありました。

加藤委員:「造ることについて評価するということをしていますが、(中略)建設を続行するのか、中止するのか、その比較を示す必要があるのではないか」

これに対し林副委員長は、中間的なオプションには際限がないとして、「完全に造る」「造った構造物を元に戻す」という両極端のみを扱う方針を説明しました。

林副委員長:「中間のオプションというのは際限がないです。(中略)両極端をやることによって、いいイマジネーションが湧いてくればそれに越したことはない」

松本委員からも「造る場合とやめる場合の中間オプションはないのか」との質問がありましたが、同様の理由で中間オプションは扱わない方針が最終的に確認されています。

水循環・環境影響評価の方法論(寺井委員)

中部国際空港の環境影響評価に携わった経験を踏まえた、寺井委員の発言も重要です。

「県は頑として影響はないと言っていますが、あんなものを造って影響が出ないわけがないです。(中略)影響がわかれば、どういう対策を取るべきかを考えてみる。あのまま影響がないと放っておいたら、どんどん環境は悪くなる。」

この発言は「6つの問題点」の問題⑤(水循環の破壊)における、「市は『影響はない』と主張するが検証データが欠落している」という論点と強く呼応します。

生態系データの不確実性が意思決定に与える影響

武田オブザーバー委員からは、次のような重要な指摘がありました。

「道路のようなものは比較的研究が進んでいて、交通がどうなのかなど定量的な結論がでます。(中略)研究が遅れているものが押し切られるということが非常に多く、ヒメボタルはわからないからしょうがないという議論になりがちですが、研究が遅れていることによって結論が変わってはいけません。」

増田委員も同様の懸念を表明しています。

「道路の場合は結果が出るのですが、生物の関係は出ないので、それを言われると非常に弱いです。(中略)できることとできないことがあるということを認識してもらいたい」

これは「6つの問題点」の**問題④(生態系への深刻なダメージ)における「予防原則」の考え方の学術的根拠として、重要な発言です。

学術と市政・感情の切り分け

武田オブザーバー委員からは、この委員会の根本姿勢についての重要な発言がありました。

「一般的には道路をつくるのは嫌だという感情があって、それにいろいろな意見をぶつけていって固めていくというのが手法です。学術は逆で、事実が先にあり、事実が整理され、解析され、解析に基づいて結論がでてきます。(中略)今回の学術検証委員会を設けた最大のポイントは、意見からスタートしない、感情とか意見から事実の方へ行かないということです。」

行政の硬直性への批判も、次のように述べられています。

「日本の行政はまだ非常に硬直的でありまして、決定した責任をどうするかという話が優先して、事実を覆い隠すということを懸命にやるわけです。」


「6つの問題点」との対応関係(まとめ)

「6つの問題点」の項目 第6回議事録における対応する論点
① 時代遅れの計画・アセス不足 個別計画同士の矛盾と上位計画(グランドデザイン)の欠如(武田委員・加藤委員)、都市計画手続きの「内実」検証を求める市民意見
② 不誠実な住民合意形成 市民11名からの意見聴取内容(市民参加の仕組みの必要性、住民の心を検証に入れてほしいとの声)
③ 科学的根拠を欠いた道路建設効果 渋滞緩和予測が古いデータに基づく点、生活道路侵入等の分析未実施項目の扱い(加藤委員)
④ 生態系へのダメージ 生態系データの不確実性が意思決定で不利に働く構造への警鐘(武田委員・増田委員)、ヒメボタル幼虫の生息地消失リスク(市民意見)
⑤ 水循環の破壊・乾燥化の悪循環 緑地減少・水圏環境変化による乾燥化と生物相貧困化が総合評価のマイナス効果として明記、中部空港の事例を踏まえた寺井委員の発言
⑥ 財政・公共事業としての不適格性 本議事録でも直接的な財政論は限定的ですが、「造らない場合の評価も必要」という加藤委員の主張が、コスト比較の必要性を示唆しています

第6回のまとめ

第5回で骨格が固まった「QOL(生活の質)5評価軸」×「6枚の分析シート」という枠組みが、この第6回で報告書の3章構成(①委員会の立場、②活動経過、③検証結果)となりましました。

委員会は一貫して「道路建設の是非」を直接判定する立場を取らず、判断のための学術的根拠・方法論を提示することに徹する、というスタンスで終始しています。

議論を貫く2つの軸は、

  • ①弥富相生山線という具体的道路計画の検証
  • ②公共事業の企画・立案プロセスそのものへの問題提起(グランドデザインの欠如、個別計画同士の矛盾、都市計画決定の硬直性)

でした。

後者は、相生山問題を超えて名古屋市政全体への提言という性格を持ち、武田オブザーバー委員が繰り返し強調した「学術は事実から出発し、感情や結論ありきで進めない」という姿勢が、委員会全体の一貫した方法論的基盤になっています。

生態系(特にヒメボタル)に関するデータは終始「不十分」「わからない」とされ続けましたが、「わからないことをわからないと明示すること」自体が学術的誠実性の核であるという認識が、最終回で明確に共有されました。

一方で、「データが不十分だから評価から除外する」のではなく、不確実性を踏まえた上でなお言えることは総合評価に含めるべき(加藤委員)という、より踏み込んだ姿勢も示されています。

「造らない場合」のオプションについては、加藤委員・増田委員が強く要望したものの、林副委員長の判断で「完全建設」と「原状回復」という両極端のみを扱う整理となり、中間的な選択肢の検討は最終報告書では扱われないことが確定しました。

ここは、市民や後の検証者が報告書を読む際に留意すべき限界点だといえます。

武田オブザーバー委員が繰り返し述べた「名古屋学」(名古屋の地学・社会学・生態学等を市政に活かす学術体系)の必要性、そして林副委員長が最後に述べた「まとめの完成は永久にない。市民・マスコミとのフィードバックで進化していくプロセスこそが重要」という言葉は、この委員会の成果を、単発の答申としてではなく、継続的な検証の仕組みそのものを名古屋市に提案するものとして位置づけています。


明らかになった問題点

第6回で改めて明確になったのは、名古屋市全体の「グランドデザイン(上位計画)」が欠如している、という点です。

「名古屋市の従来のいろいろな都市計画、基本計画は相互に非常に矛盾しています。例えば、開発系の計画ならば道路をつくれということになりますし、環境系の計画を使えば道路をつくってはいけないということになります。」

「名古屋市には、優れた環境政策が揃っているのに、なぜ道路建設を推進するのだろうか」という素朴な疑問は、まさにこの縦割り行政の弊害に行き着くように思われます。

COP10開催都市としての責任

この学術検証委員会が開催されていた2010年、名古屋市は生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催都市でもありました。

世界各国から多くの関係者を迎え、生物多様性保全の国際的な枠組みが議論された、まさにその年に、地元の重要な緑地をめぐってこうした議論が交わされていたことは、あらためて重く受け止める必要があります。


全体の評価

第1回〜第6回を通した全体の評価は、こちらのページにまとめました。

議事録の要約

  1. 「第1回議事録」要約
  2. 「第2回議事録」要約
  3. 「第3回議事録」要約
  4. 「第4回議事録」要約
  5. 「第5回議事録」要約
  6. 「第6回議事録」要約
  7. 全体の要約